犬のいる風景

 今、時々会うのが、楽しみな「ココロの愛犬 きなこ」が、一番身近なのだろうけど、思えば「自分が飼ってない」というだけで、わりと犬って周りにいた様な気がします。。今の地に引っ越して、もはや11年だけど、随分、いろんな犬が出入りしたものです。クロ、ゴン、マメ、かわいいこちゃん(正式名称不明:いつも隣のおじさんがそう、呼んでた。)、バロン、ウラン、ベル、トラ、リキ、こうた、チェリー・・・。そんな事、考えてたら、エッセイにしてみたくなっちゃったんだよね。

 
 一番古い記憶って、言うと、多分3歳頃だと思うけど、3番目の叔父のTが、拾ってきたか、もらってきたかして、当時住んでた家に持ってきたんだよね。多分買ってきたんじゃない・・・と、思うけど。
 その日の事って、すごく覚えていて、ダンボールに入った子犬を、当時のスタッフと一緒に、見ながら抱っこしたんだよね。小さくてカワイかったよ。
                                                                         
 名前は「ドン」って言うんだけど、由来に関しては、どうも私がゴッドファーザーらしいのだ。。当時のテレビアニメにドンチャック物語」っていうのがあって、それにハマッてたらしく、そこから取ったんだと、思うけど、T叔父に言わせると「俺がつけた!」っていうかもしれないかなあ?なにしろ「ドンちゃん」って呼ばないと、気に入らなかったんだよね。オトナは皆「ドン」って呼ぶから・・・、例によって可愛くないコドモでした。

 さて、ドンちゃんは、裏の倉庫でにつながれて、アッと言う間に大きくなり、3歳の私を、追い抜きます。ふざけて、飛びかかられると私が倒れてしまいます。もはや、自分よりお兄さんになってしまい、ドンちゃんなんてカワイイどころの騒ぎでは、なくなってしまったのです。。
 よく「ドンちゃんが叩いた〜(?)。」って泣いてました。そんな時はいつも、祖父が「よしよし、お父さんが、ドンちゃんを叱ってやるでな。」って言って、何も悪くないドンちゃんを叱ってました。天国のドンちゃんよ、許したまへ。

 注:私は小学校にあがるまで、祖父母を「お父さん、お母さん」と呼ばされてました。

 ドンちゃんで、覚えてるのは「味噌汁かけ御飯」です。当時は、たいていどこの犬でもメシと言えば、「冷や飯に、味噌汁ぶっかけ」でした。そのせいか、私はこれが大嫌いです。理由は「犬の食うモノだから。」なのです。ちなみに、お茶漬け、卵かけ御飯は、それ程、抵抗なく食べます。T叔父は好きらしく、先日「ありゃ、犬の食うモンだよ。ドンちゃんが食べてたじゃん。」と言ったら、ウケまくってました。
 
 また、当時の事なので、ドンちゃんは、夜になると脱走してたようです。そんな事、当然の事ながら、全然知りませんでした。ある朝、餌を持って行くと、ドンちゃんがいません。ベソをかきながら、祖父に伝えると、「今、Tが、助けに行ったでな。」と言いました。私はT叔父が、急に偉い人のように思えてきました。なにしろ3歳程度だから、偉い人というのは、祖父と、ガッチャマンと、マジンガーZの事だと、思ってたので、「Tちゃんって、すごいね、強いんだね。」と言ったら、祖父は「Tは拳法が強いんだぞ、やっつけちゃうぞ、ドンも助けてくるぞ。」と言うので、ますます、ガッチャマンだと思ったようです。

 ある日、ドンちゃんは、ゴッドファーザー(推定)である私に噛み付きました。私は泣き喚き、祖父母を困惑させました。「もう、ドンちゃんなんか嫌い!」と一方的に絶縁宣言をしました。そんな事もあって、当時ドンちゃんの小屋は、タオル干し場にあったのですが、スタッフにも噛み付くらしく、条件の悪い隅っこに追いやられました。人の出入りの少ない場所だったので、ドンちゃんはますますいじけた性格になっていったみたいでした。私も小学校に上がり、住む場所が変わったので、ドンちゃんとは縁遠くなってしまったのです。
 
 なんとなく、夏頃だったと思うけど、裏に行ったら、ドンちゃんはいません。祖父に伺ったら、「夜中に脱走して、毒餌を食べて、死んだ。」と言いました。私は、もう主のいなくなった小屋を見ながら、彼が子犬で来た時を思い出し、今にもベソをかきそうな顔をしてたら、祖母が「手をあわせて、お参りしりん。」と言いました。お参りの意味も分からず、手をあわせたモノです。まだ「死」の意味が分からなかったんだと、思います。
 
 ずいぶん、後になって知ったのですが、「ドンちゃん」以前にも母の在所には、随分たくさんの犬がいたのでした。たまたま祖父のアルバムを見てたら、闘犬がいたり、K叔母が犬を抱っこしてたり、何匹かいたようです。ドンちゃんはオーラスだったみたいですね。それにしても「ボケ」って言う名前の犬がいて、「いくらなんでも、ボケはひどいんじゃないの。」と言ったら「ボケっとした顔だっただわ。」とK叔母は言ってました。ひどいネーミングだなあ(笑)。


 別件ですが、私は、市内でも山手の方にある、母の知り合いの家に、あずけられる事がよくありました。その家は男ばかり、3人兄弟で、私が入るとちょうど4人兄弟のような構成になって、しかも一番上だった私に、兄が2人できたような気がして、楽しかったです。その家には「ポルシェ」という、あきらかに ドイツの自動車工房の認可が下りていない名前の犬がいました。
 でも、ある日その家に行ったら、ポルシェはいません。おじさんに「ポルシェはどーしたの?」って聞いたら、「おじさんが犬鍋にして食べちゃったから、おらん。」と笑顔で語りました。素直な私は真に受けて、一気に恐怖のどん底に突き落とされました。しばらく、おじさんに近寄らなかったですね。「山の人って、犬を食べるんだ!ヤマンバなんだ!」と、訳の分からない事を考えながら、その家で食べさせてくれる晩御飯に不安を感じました。山って言っても、市内なのにね。

  話は戻り、時は流れ、今現在ですが、あんなに犬好きだったT叔父の家にも犬はいません。店の名前を犬からもらってるのに、父は「犬はくいつくから、怖い。」と言い。戌年生まれの母は「犬、怖い。」と言います。どうやら、我が家に犬が来るのはずっと、先のようですね。
  
  今は夏、ドンちゃんが逝ってしまった季節です。今更ながら、お悔やみ申し上げます。(完)




エッセイの目次に戻る。